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二月にはに期待します

2016年03月11日

幻聴があったよ


幻聴だったのかもしれないわ。ただの幻聴か、それとも……」
 彼女は口ごもった。アルコール中毒か、精神休養剤の飲みすぎのせいかなと、ち
ょっと不安になったのだ。そう思いつくと、心配はしだいに大きくなる。
 ミエはまたダイヤルをまわした。精神科医に相談しようと思ったのだ。電話はつ
ながり、医療カードの番号を告げる。ちょうどすいていたのか、すぐ医師に話がで
きた。
「どうなさいました」
「自分でもよくわからないんですけど、うなの。薬品のせいか、ア
ル中になったのかと心配で……」
「順序をたてて診察しましょう。まず脳波を調べましょう。そのご用意を……」
 ミエは立ち、棚の医療箱から小型の脳波測定装置を出して頭につけ、一端を電話
機の横のソケットにさしこんだ。そしてボタンを押す。これでむこうへ送られるの
だ。それが終わると医師が言った。
「けっこうです。あとでくわしく検討しますが、コンピューターは異状なしとのラ
ンプをつけております。では、つぎに連想のテストをおこないます。室内を静かに
し、椅子に横たわってくつろいだ気分になり、受話器を耳にして下さい。そして、
お聞かせする音で頭に浮かんだことを、すぐお答えになって下さい」
「ええ……」
 ごうごうという音が聞こえた。彼女は「ジェット機」と答える。規則的にくりか
えされる拍子木のような音がした。「宗教」と答える。くにゃくにゃしたような音
がする。「蛇」と答える。
「なぜ蛇を連想なさったのでしょう。蛇について頭に浮かぶことを、なんでもおっ
しゃって下さい」
「そうね。子供のころ、近所の男の子に蛇のオモチャで驚かされたことがあったわ
。だけど、そうじゃなく、なんといったらいいかしら……」
 医師に対する信頼感で、彼女はあれこれとしゃべった。かくしだては正確な診断
のさまたげになる。相手にうながされ、言いにくいことにまでおよぶ。医師も職務
上知りえたことは口外できないのだ。それへの安心感。
「受話器の感触と、蛇への印象とに共通なものをお感じになりませんか」
「さあ、そういえば……」
 質問が送られ、答が送りかえされ、それがくりかえされた。やがて医師は、たい
したことはなさそうですと言い、もし幻聴がまたおこったら、病院へおいで下さい
と指示した。それから鎮静剤の名を教えた。
 彼女はお礼を言い、電話を切る。戸棚をさがすとその薬があった。服用して横に
なっていると、ねむりがおとずれてくる……。
  


Posted by 二月にはに期待します at 11:52Comments(0)